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【巻頭言】 |
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進化をつかさどる人材開発
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曽根岡 由美子 |
ワトソンワイアットレビュー27号に掲載の「一事徹底の人事制度」においては、企業のエッジにとことんこだわった人材マネジメントの仕組みを構築することについて述べた。人材マネジメントを考える際には、当該企業が目指す姿にとことんこだわり、それを実現していくという視点で構築することが必要という論旨である。ここでいう「目指す姿」とは、まさに企業の進化形であり、角度を変えて見れば「一事徹底の人事制度」とは、事業のプロセス進化と「人材開発」を連動させる際の仕組みの一つと言うことができる。
本稿においては、事業の進化をつかさどるリーダーをいかに開発するかについて、人事制度の枠組みを超えて「人材開発」という視点で考えていきたい。
先日、電気機器業界のリーディングカンパニーであり、グローバルにも著名なある会社の方々と話をする機会を得た。そこで意外であり、一方でなるほどと思ったのは、「うちの会社の改革は、すべて連続の範囲であり、10%の不連続は大きなチャレンジなんです」という彼らの言葉である。つまり、すべての変化は確立された現在の事業プロセスの延長上でしかあり得ないというのである。
確かに、過去において圧倒的な成功モデルを確立した企業にとって、全くの不連続の取り組みというのは大きなチャレンジかもしれない。もちろん、これだけの企業が現在の「連続」のもとに常に発展を仕掛けていけば、継続的な「成長」を続けることは期待される。しかし、劇的な環境変化も珍しくない今日において、果たして安定的にリーディングカンパニーとしてのポジションを維持し続けることができるのであろうか。
「成長」と「進化」の違いは何であろうか。生物学的な定義とは若干異なるが、ここでは、従来との「連続」におけるなだらかな変化を「成長」、「不連続」な変化を遂げて一段高いレベルへとバージョンアップし、業界構造を転換するような発展を遂げることを「進化」として考えたい。
緩やかな環境変化のもとであったり、従来の成功モデルの競争力が著しく高いものである場合は、継続的な「成長」を続けることによって、市場における優位性を維持することも可能かと思われる。しかし、激しい環境変化のもとにおいて、圧倒的な強みを実現し、維持し続けるためには、企業にも「進化」が求められる。
本誌においては、事業のコアプロセスに着目して、企業の進化について各コンサルタントがそれぞれの角度から語ってきた。一方で、事業のプロセスを高度化する実態変革を担うのは人材であり、人材の進化なくして事業の進化はあり得ない。したがって、「人材開発のプロセス」の高度化こそが、企業の進化のもう一つの重要要素と考えられる。言い換えれば、事業進化のスピードは人材開発のスピードに大きく左右されると言える。
我々が手がけている多くの人材マネジメント関連のプロジェクトは、まさに「人材開発のプロセス」を高度化する取り組みである。登用から代謝までの人材フローや、人事制度は、この開発プロセスのコンポーネントにすぎない。
以下は、筆者が最近深く関わった実際のプロジェクトであり、今なお実態変革のお手伝いをしている実例である。振り返ってみると、まさに「進化」に向けての「人材開発プロセスの高度化」の典型例であったといえよう。
@経営トップが描いたビジョンの確認
従来型の単一ビジネスからドメインを広げたトータルソリューションプロバイダーへの転換というビジョンを掲げた企業から、人事制度構築の依頼を受けた。当初、ビジョンと従来ビジネスの乖離が極めて大きく、変革の具体的なシナリオも共有化されていなかったために、どのように実現していくかがテーマとなった。しかし、社内の状況を知るにつれ、目指すサービスの構成要素であるところの機能を順次備えつつあることが明らかとなった。さらに、この段階で進化の種となるような人材を数名確保しており、全社として統一した機動的な動きとはいえないものの、進化に向けての動きが生じ始めていることが確認された。
ここで感心したのは、「不連続」な絵を描き切った経営トップの先見性と、それに向けての実際の変革の種が生まれつつあったことである。
Aビジョンを実現するためのコアプロセスの定義
当時は、個々の組織や個人が顧客軸やサービスの軸などに基づき、目指す姿や新たなサービスのあり方を示そうとしていたものの、統一の定義を仕切れていない状態であった。そこで、プロジェクトの第一段階では、ビジョン到達時における事業のコアプロセスの仮説を立てることからスタートした。当該企業においては、複数のコアプロセスが並立することで合意された。このコアプロセスの仮説が設定されたことが、プロジェクトを前進させる上での大きな転換ポイントだったと実感している。
B事業のコアプロセスをリードする人材タイプの明確化
ここで初めて人の話がスタートする。上記のコアプロセスを実現し、牽引していくにはどのようなリーダーが必要か。当該企業においては、コアプロセスが複数存在するため、リーダー人材のタイプも多岐にわたったが、大別すれば、主に事業進化をつかさどる人材タイプとして以下の三つと考えることができる。
・第一のタイプ ― 事業プロセス全体をリードするプロデューサー型のリ
ーダー。顧客への提供価値を明らかにし、各機能をつないでサービス
の提供体制を整え、プロセス全体をマネージする役割を担う。
・第二のタイプ ― 各機能の競争力の要となる専門プロ。従来のコアビ
ジネスや各機能における専門性の高いプロであり、プレーヤーとして
組織スキルの高度化を担う。
・第三のタイプ ― 各組織のマネジメント・プロ。独立した個別事業と、ト
ータルサービスの機能という二面を持つ各組織のマネジメントを担う。
なお、当該企業に限らず、企業進化の過程においては、事業プロセス全体をリードする第一のタイプと、プロセスの構成要素をリードする第二、第三のタイプのリーダー人材が必要と考えられる。
C実態変革に向けての、意識改革・行動改革の仕掛け
上記で明らかとなった人材像は、「不連続」の発想のもとに描かれたビジョンに基づくものであることから、当然のことながら現状の社員のあり方とは著しく乖離がある。そこで、社員の意識や行動を転換するための各種の仕掛けが必要となる。人事制度は、まさにこの「仕掛け」の一つにすぎない。社員の意識や行動を変えていくには、人材マネジメントの仕組みと組織運営を組み合わせて、強烈に迫る必要がある。
当該プロジェクトにおいては、仕組み的には、社員に何を求めているかを示し、成長のベクトルの方向を一致させるために、上記のリーダー人材の具体的なイメージを示した。バンド要件として、意識すべき行動項目を設定し、それぞれについて具体的な行動例をモデルとして示し、評価や処遇とリンクさせたのである。
同時に、従来の予定調和的な経営のあり方を、進化モデル起点の経営/組織運営へと転換し、進化をリードすべきポジションにある社員に対しては、ビジョン実現をすべての判断軸として、合理的にマネジメントサイクルを回して組織運営を行うことを強く求めた。
これらの運用を進める過程において、経営からのコメントや説明会、研修、事業プレゼンなどの場を多数設けて、リーダー人材としての役割認識やコミットメントを迫るコミュニケーションを重ねてきており、今なお継続中である。
上記は、実在企業における実例であるが、進化をつかさどる人材の開発については、もう少し幅広く考える必要がある。
進化をつかさどるリーダー人材には、上記の「進化モデルを実現する人材」のほかに、「進化の種そのものを生み出す人材」がある。
上記の例は、経営トップによるビジョン先導型の企業進化の取り組みである。したがって、ここで求められる人材は、進化モデルを実現する人材であった。すなわち、上記のとおり、@コアプロセスを定義して形づくり、現状の強みとつないで転換するタイプと、Aプロセスの構成要素(機能や個別事業)の競争力を担うタイプに大別される。これらの人材を開発するには、新たな役割を明示して、その確実な遂行を迫ることが有効である。
一方、進化の種がボトムアップ型で発現する場合も多い。そこで、事業プロセスをリードする人材だけでなく、進化の種そのものを生み出す人材の発現率を高めておくことも必要である。進化の種を生み出すのがビジョンメーカーであればビジョン主導型、技術系であれば技術主導型の進化モデルということになる。いずれにしても、これらの人材は上記の進化モデルを実現する人材とは異なり、役割として与えられたからといって必ずしも機能するわけではない。いかに進化の種の発現率を高めるかが課題であり、いわば博打的な部分である。したがって、これらの人材を確保し、機能させるには、仕組みによる育成を行うよりも、種を生み出すポテンシャルのある人材を見極め、投資的な「遊び」の部分として時間と場を提供するゆとりが必要と思われる。
人材開発のスピードが、事業進化のスピードを大きく左右すると冒頭に述べた。上記の、進化モデルを実現する人材をいかに迅速に開発するかが、事業進化のスピードを決定するということである。そこで、どの程度のスピードが求められるかは、進化モデルがどのくらい現状から「不連続」に描かれ、先見性があるかによる。
上記の例は、経営トップによるビジョン先導型の企業進化の取り組みである。先見性が非常に高かったために、3年前に描いたビジョンが今日いまだ陳腐化せず、業界構造の変化の方向と一致している。そのため、上記のように社員の意識や行動改革に働きかけ、仕組みを運用していくというソフトランディング的な人材開発が可能である。
しかし実際には、事業環境の変化のスピードが速く、早急に進化モデルを実現しなくてはならない場合がほとんどである。そこで「進化モデルを実現する」リーダー人材の開発のスピードアップがテーマとなってくる。社外から必要な人材を調達し、確実な役割遂行を追求するとともに、現有人材に迅速な意識・行動の転換を迫ることが必要である。
ところが、人が変わるのは、なかなか困難なことである。上記のプロジェクトにおいても、1年近くたってようやく意識に変化が現れ始めた段階である。意識や行動を転換するには、過去への執着を捨てるとともに、かなりの追い込まれた状況にあることが必要である。このことは筆者が身をもって経験し、痛感しているところである。個人的な話になるが、筆者の前職(?)は専業主婦であり、それも結構長いキャリアを持っている。その専業主婦がコンサルタントへと転身(進化と呼ぶのはおこがましい)するには、それなりの厳しい過程があった。手前味噌になるが、コンサルティングのイロハも知らない状況から、一応自分の仕事を「コンサルタント」と言えるようになるには、それなりにプレッシャーを感じて厳しい日々を送った記憶がある。7年間のコンサルタントとしての生活のうち、最初の1年、特に3カ月は今でも一日一日を鮮明に覚えている。思い返せば、何をしても怒られる日々であった。その中で、小さいながらも何かしらの価値を生み出せるようになったのは、失うものや過去へのこだわりが何もなく、がむしゃらに未知の世界に取り組んでいったからではないかと思っている。
ところが、コンサルタントとしての足場ができてしまうと、次のステップにバージョンアップするのは、最初の立ち上げ時期よりもはるかに難しい。今なお苦しんでいる。これは、実力の問題もあるのだが、「小さいながらの価値」に対する執着が生まれ、自分なりのこだわりが邪魔をしているのではないかと自己分析している。連続の中での変化しか得られないので、多少の「変化」はあり得ても、「進化」には至らないのである。
同様に、人の進化を促進するには、過去へのこだわりや従来のあり方に対する執着をぬぐい切ることが前提条件となるのではなかろうか。従来の姿とは不連続な変化を起こすことによって、バージョンアップした姿に急激に進化することが可能と考える。ところが、従来の成功モデルが大きければ大きいほど、それまでの価値観や方法が根づいており、慣性をぬぐい切れない場合が多い。
そこで、人材開発のスピードを上げるには、次の各点に留意し、開発のプロセスを埋め込んでいくことが必要と思われる。
@余白や変化対応力のある人材を見極める
従来の方法や価値観に固執しすぎずに、進化の方向性に従って、ゼロベースで自らが考え、行動できる人材を見極める。柔軟性やチャレンジ精神をもった人材が望ましい。
A役割を明示して、プレッシャーを与え、やり切ることを求める
この方法論はいろいろあり、各企業による工夫のしどころであるが、主に仕組み型と、組織運営型に大別することができる。また、双方の組み合わせによって、より高いプレッシャーを与えていくことも可能である。
・仕組み型人材開発プロセス
上記のプロジェクトの例のように、人事制度に織り込み、その運用を
通してじわじわとプレッシャーを与えていく。仕組みの織り込み方や運
用の仕方は、前述のプロジェクトのように比較的にソフトなものから、
毎月ゼロベースで評価しなおしたり、毎年10%の人材流動性を確保す
るようなハードなものまで考え得る。
・組織運営型人材開発プロセス
人事制度上の処遇ではなくて、事業運営上の必要性と人材開発を同
時に仕掛ける方法である。事業プロセスの担い手として役割を明確に
与え、半年か1年の後に確実に実績を遂げたかを問い、合格すれば引
き続き次の段階の役割を与える。しかし、期待された役割を担い切れ
なかった場合は、即時交代となる。
例えば、初年度は事業プロセスの構成要素としての店舗において、
立ち上げと自分の後継者を育成することをミッションとして設定する。
1年後に実現した場合は、後継者に店舗を任せて、本人はエリア全体
の統括の役割を与えられる。達成しなければ、次の候補者と交代する
という極めてスピードの速い成長を原則とした運営の方法もある。
また、プロジェクト運営において常にストレッチした役割を与えるよう
なアサインメントを組織運営の原則に織り込むといった方法も考えられ
る。
以上のように、プレッシャーの与え方は様々であるが、仕組みと組織運営を連動させることが最も効果的と思われる。企業進化に向けて短期に人材を開発するためには、可能性のある人材を選出して、高いプレッシャーを与え続け、進化の過程を検証していくことが必要であろう。
以上、「事業プロセス」と並ぶ企業の進化の重要要素として、「人材開発のプロセス」の高度化をどのように行うかを具体的に考えてきた。人の問題は、単に「生み出した成果に応じて処遇する」という成果主義的な視点だけで考えるものではない。今や企業の進化をつかさどる人材開発をいかに行うかという視点で、幅広くとらえていくべきタイミングに来ている。読者の方々の企業においては、人材開発はどのように行われているであろうか。本稿が、企業進化という視点から、事業のコアプロセスと合わせて人材開発のプロセスを今一度再考されるきっかけになれば幸いである。
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