【巻頭言】
経営進化モデル
プロセス革新で勝つ経営

1.
現場主義のモデル化
進化する業務プロセスの「型」の追求:
標準化でグローバル化し、高度化で暗号化する
   
2.
コアプロセス再設計のマネジメント
企業進化のソフト課題の解き方

3.
「進化」をデザインする経営モデル
コアプロセスの継続的革新を実現する〈交響〉のメカニズム

4.
知の統合基盤の再構築と新たなミドルの誕生

5.
会社ノ扉ヲ開放セヨ!
「変化」を常態化し、「進化」につなげるメカニズム
   
6.
イノベーションの進化
ブレークスルーの確率を高めるプロセスとは

7.
汎アジア業務プロセス革新
「知」の共有化を通した企業進化の可能性

8.
民活時代における行政コア業務の変革
新たな役割を果たすために

9.
人材と組織を共進化させる

10.
攻撃的企業進化
ゆっくりと激変を仕掛ける

11.
進化をつかさどる人材開発
プロセス革新をリードする人材をいかに開発するか

12.
サムスンに学ぶ進化の秘訣

【心理学ゼミナール】
動く組織を作るためのプロセスマネジメント

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攻撃的企業進化
ゆっくりと激変を仕掛ける

 

西川 淑子

進化の基本形

 環境の変化が起こると、その変化を察知し、変化に適応するための変異を起こす。そして、環境の中で淘汰が起こり、強い者が生き残りを果たす。環境の変化が起こったとき、生物はこのような進化のプロセスをたどる。
 自然界に限らず、このようなメカニズムは、企業や組織においても日常的に働いている。つまり、競合や顧客の変化を敏感に察知しその変化に適応すべく、自身の事業や業務のあり方を柔軟に組み変える。それによって、市場での生存競争で生き残りを果たす。この進化のプロセスをタイムリーかつ迅速に実行することができなければ、いずれは消えいく運命となってしまうのである。
 しかし、このようなプロセスは、ビジネスの世界ではあくまで基本形であって、唯一無二の最善策というわけではない。このプロセスを経て形成される進化後の姿とは、これまでの自分のほとんどを肯定・維持したままで、変化に応じて変えるべき「部分」のみを変えた、いわばマイナーチェンジの繰り返しであることが多いのだ。
 もちろん、このようなプロセスですら継続的に実行するのは困難であるから、この基本形を確実に行っていけば、少なくとも負け組みになることは回避できるであろう。

 しかし、より確実な生き残りを果たし、より大きな進化を果たすべく、独自のルートで進化を実現している企業がある。そのような企業は、環境の変化に適応するのでなく、環境自体を変化させるような、「激変」を自ら仕掛けることで、独自の進化路線を進んでいる。いわば、「攻撃的進化」を遂げているのである。

攻撃的企業進化

 このプロセスは、これまでの自分とは全く違う姿形に変身させてしまうプロセスである。もちろん、これまでの自分の部分(片鱗)は残っていることがほとんどだが、傍から見ると、全く違う顔をした企業へと変身しているのである。その結果、これまでの重要顧客がそうではなくなり、これまで競合だった会社が視野の外に消え、これまでの中核事業が新たな事業全体の一部にすぎなくなる。
 このような進化を遂げることで、市場で唯一無二の存在になる。競争に生き残るのでなく、競争自体が存在しないような、そういう状況を自ら作り出すことで、大きな発展を遂げるのである。このように、自ら環境自体を変化させ、全く新たな企業の姿へと進化を遂げるのが、攻撃的進化プロセスである。
 通常の進化プロセスと攻撃的進化プロセスで大きく異なるのは、受動的か能動的かという点である。通常の進化のプロセスでは、まず環境の変化があり、その環境の変化を受け入れるところからスタートする。どちらかといえば、受動的な進化といえる。一方攻撃的進化では、環境の変化はあってもなくてもどちらでもよい。進化の起点は、より高度な進化を遂げ、より強い企業になりたいという意思があるかどうかであり、能動的な進化である。
 そして、前にも述べたとおり、通常の進化は、「今までの自分」を肯定しつつ、そこに改善が加えられていくプロセスである。一方、攻撃的進化では、「将来の自分」を意識して変容を続けていく。よって、攻撃的進化においては、これまでの自分を否定することすら、時には必要となる。

攻撃的進化を前進させるコツ

 私がコンサルタントとして仕事をしている中で、このような攻撃的進化を遂げようとしている企業にたびたび出会う。そのような企業に共通して見られる、攻撃的進化を成し遂げるためのコツについて、以下に述べたい。

@具体的な夢(ビジョン)を持つ
 攻撃的進化を遂げられるビジョンと、そうでないビジョンとには、明らかな違いが存在する。それは、進化後の将来像を、具体的にイメージできるかどうかである。前述のように、攻撃的進化とは、自社の事業や顧客・競合などが大きく変わっていくのであるから、将来、どのようなプレーヤーを巻き込み、顧客にどのような価値を提供し、そのために、どのような体制でビジネスを推進するのか、といった、具体的な絵を示すことが必要になってくる。極端に言えば、自社が市場でどのように位置づけられ、顧客がどのような言葉で自社を賞賛し、社員がどんな表情で働いているのか、といった、詳細な映像がイメージできるまでに具体的な夢を、まず経営者自身が描いているのである。これが、攻撃的進化の第一要件である。

A象徴的な変化を早期に起こす
 次に必要なのは、社員に対して、経営の本気度を示すことである。そのためには、できるだけ早い時期に、象徴的な変化を起こすことが有効である。例えば、その一つが人事制度である。特に、大きな変化を遂げる上では、これまでとは違ったリーダー像が必要となってくることが多い。その場合には、人材に求める要件が変わってくるのだから、当然、評価の視点が変わってくることになる。また、短期の業績を重視していた評価・報酬制度(例えば営業インセンティブなど)を、思い切って廃止することで、事業構造自体が変わっていくのだというメッセージを大きく打ち出すケースも多い。
 また、組織体制を変えることも、象徴的な変化の一つである。今後のコアとなる事業を開発する部隊を早期に設置したり、あるいは、組織の壁を壊してチーム型の組織運営を行うことで、これまでとは全く違う動き方をするのだということを示す。
 このように、これまでの自社の象徴であった仕組みや制度を解体し、新たな進化の象徴となるべき変化を早いうちに起こすことで、「形から入る」ことも、進化を加速する上では重要である。

Bビジョンと現場をつなぐ複数のリーダーを作る
 進化するということは会社全体が大きく変容するということであるから、トップ一人がいくら強力なリーダーシップを発揮したとしても、なかなか社員一人ひとりの意識や行動を変えることは難しい。そこで、これから成し遂げようとしている進化の形を現場の言葉に置き換え、多くの社員をあるべき姿に引っ張っていく現場リーダーの存在が非常に重要になってくる。
 しかし多くの場合、事業のトップレベルのリーダーであっても、今後の進化を信じ、自発的に変革を進めていけるような人材は、あまり多くない。そのため、意図的にリーダーを作り上げていく必要がある。求めるリーダー像にマッチする人材が不足している場合には、最初はリーダーグループとして、複数人で一つのリーダーシップをとっていくという形でもよい。経営と密なコミュニケーションをとりながら、会社の方向性を理解し、現場のマネジメントへと落とし込んでいくリーダーが必要なのである。そして、現場との橋渡しをしていくことで、できるだけ多くの社員を「洗脳」していくという、伝道師的役割を果たすことが、初期の段階では非常に重要なのである。

立ちはだかる壁

 以上の3点が、攻撃的進化を遂げるために必要なステップであり、進化のプロセスを前進させるためのコツである。
 しかし、順調な進化を遂げつつある企業でも、進化途上で様々な課題に突き当たっている。それらは、上記三つのポイントと、非常に密接に関連している。

@過去のものへの愛着・こだわり
 第一に越えるべきハードルは、これまでのやり方や成功モデルへの愛着・こだわりである。特に、従来ビジネスのスタート段階から携わり、今の企業の成長を支えてきたと自負する人たち、つまり、経営に近い層に多い現象である。今後の進化のビジョンへの信念と確信を持ちながらも、いざとなると、これまでのモデルやシステムを捨て切れず、変革の推進を阻害してしまうことがある。
 もちろん、これまでの成功がベースとなって新たな進化が生まれるのだから、これまでのやり方を全く否定する理由はどこにもない。しかし、新たな進化を考えたとき、思い切って捨てるべき部分はどこか、変えなくてはならないところはどこなのかを明確に意識しておかないと、過去のものへの愛着が、思わぬところで足かせになってしまうのである。

A資源の過剰な重点配分
 次に、変革を急ぐあまり、急激な方向転換と資源の重点配分を行ってしまうことがある。これは、まだ十分に基盤の整っていない状態の上で新たなビジネスを展開するという、「砂上の楼閣」状態になるということである。
 このような急激な変化は、二つの点において、進化を阻害する危険性をはらんでいる。第一に、現在の競争力の源泉である従来ビジネスを弱めることで収益力が減退し、企業としての存続自体を危うくしてしまうという点である。そしてもう一つ、社員にとっても十分な心の準備ができず、変革に対する不要な反発、反感を買ってしまう危険性があるということである。
 このようなリスクを軽減するためには、将来の具体的なビジョンを描くと同時に、進化の時間軸を明確にし、各局面でのリソースの配分のあり方、各事業のボリュームのイメージを、あらかじめ明確に描いておくことが必要である。拙速な変革は、失敗のもとである。

B変革リーダーの過去への回帰志向
 最後に、最も悩ましい課題がある。それは、変革をリードしていくべき現場のリーダーが、しばしば過去への回帰志向を示すことである。これは、将来に向けて新たなシステムや仕組みを導入し、運用していこうとした際、「やっぱり今までの仕組みのほうがよかった……」と、過去のやり方の良さを改めて認識し、ともすれば昔のやり方に戻ろうとするのである。そのほとんどは、新たな仕組みを作り出す際の生みの苦しみからの逃避、あるいは、新たなものが入ってくることへの拒絶反応であることが多い。新人事制度の構築・導入においても、しばしばこのような発言を聞くことがある。これまでの仕組みややり方について、いろいろな問題を指摘し、変革を求めていたにもかかわらず、このときになると、これまでのやり方の良いところばかりが思い浮かぶから不思議なものである。
 このとき、そのような反応をすぐに聞き入れ、「では、やはり前の仕組みに戻そう」と安易に流れてはいけない。なぜそのような反応を起こしているのか、そもそも実現したいのはどのようなことなのか、という、変革の「そもそもの目的」に、常に立ち返って考えていくことが、非常に重要である。
 新たなものを導入したとき、多かれ少なかれ、過去への回帰志向が出てくるのは当然のことである、ということをまず認識しておいてほしい。その上で、「3歩進んで2歩下がる」的な検討プロセスを踏んでいくことも、進化を遂げる上では非常に重要なステップである。

ゆっくりと激変を仕掛ける ― 仮面の隣人にご用心?

 スピードの時代といわれて久しいが、攻撃的進化を遂げるためには、やはりある程度の時間は必要なのである。昨日までいつもと同じ顔をしていた企業が、突然今日になって全く違う顔になった……そのように見えるかもしれない。しかし、あるタイミングから、いつもと同じ顔が仮面に変わっていたのであり、企業の中では、急激な進化に向けて着々と準備が進められているのである。この段階を、「熟成の期間」と呼んだり、「我慢のとき」と呼んだりする経営者もいる。いずれにしても、大きな変革を遂げるには、遅々として進まないように見えながら、着実に前進しているフェーズがあることを、まずは認識しておく必要がある。

 同時に、今は隣にいるいつものコンペティターの顔が、実はすでに「仮面」に変わっているかもしれない。隣人がいつ何時仮面を脱いだとしても動じないよう、自社の独自路線を早いうちに見極めていただきたいと考えている。

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●西川淑子 にしかわとしこ/アクセンチュア(株)において、主にヘルスケア業界、官公庁の業務プロセス改革に関するコンサルティングを経験した後、ワトソンワイアット株式会社入社。当社入社後は、製薬企業、製造業、サービス業等において、組織ビジョンに基づく人材マネジメント実現のための人事諸制度の設計・導入および定着化支援に従事。東京大学法学部公法学科卒。