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【巻頭言】 |
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汎アジア業務プロセス革新
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鈴木 康司 |
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浜屋 祐子 |
アジアに進出・展開してから、かなりの年数がたっているのにもかかわらず、現地でマネジメントや一定の権限をまかせられるローカル人材が育っていない、という問題意識をもつ企業がある。前回のワトソンワイアットレビュー28号では、人材マネジメントシステムの切り口から現地化を促進する方策を考えたが、今回は「知」の共有化という切り口で考えてみたい。
多くの日本企業のアジアでの日常業務の進め方に目を向けると、ローカル社員が問題に直面した際には、常に駐在員に尋ねるという状態が、ほぼどこの会社にも見られるのではないか。質問を受けた駐在員は、本社の関係者にコンタクトをとり、そこを通して本社にある技術なりノウハウを知ることが可能になる。このように、本社の「知」をローカルに展開していくために、現在は駐在員が大きな役割を果たしている。
もちろん、この背景には、企業の競争力の源泉である技術のエッセンスは本社でキープし、海外に放出しない、という考えがあることは当然考えられる。企業の心臓部ともいえる重要な情報・技術の流出は企業の死活問題になるので、それらを保護する仕組みは当然今後とも必要である。
しかし、真の意味で現地化を推進していくためには、このような本社(駐在員を含む)とローカル社員の「知」の分断状態を放置しておくことはできない。何らかの「知」の共有化が必要である。
業務を進めていく上では、活動内容・具体的な行動(What)、また、その行動をする際に注意すべきチェックポイント(How)の理解が求められる。さらに、これまでと異なる状況に対応したり、業務の改善を行ったりするためには、その背後にある原理原則なり技術(Why)への理解が必要である。こうした、業務を進めるために役立つWhat・How・Whyが「知」である。
こうした「知」の共有化の重要性については、広く認識されている。しかし、現状ではなかなか実現できていないという企業が多い。では、なぜ「知」の共有化は進まないのだろうか。
「知」が共有化されていない状態には、下記の三つのパターンがある。
1. そもそも、属人化された「知」を言語化していない
個人経営的に一人ひとりが独立して動いてきた組織、体系化した指導は行わず、先輩の背中を見ながら仕事のやり方を身につけさせてきたような組織においては、「知」は個人の頭の中にのみ蓄積され、言語化されていないというケースが多い。こうした組織に長年身を置いてきた人の中には、いざ求められても、普段頭の中で行っている判断プロセスをうまく言語化できないという人も多い。そのため、他者が「知」を頭の中から引っ張り出すためのインタビューを根気強く行って、整理してあげることが必要である。
2. 言語化されても共有されていない
「知」を言語化し、まとめても、自分の所属する組織の関係者や上司に見せるだけで、組織全体での知の共有化が進んでいないというケースも多い。原因としては、セクショナリズムの存在や、共有するためのインフラが整っていないということが挙げられる。このような場合、せっかくまとめた情報は、異動や組織替えを繰り返すうちに、いつしか存在を知る人が少なくなってしまうことが多い。
3. 言語化されていても体系化されていない
また、「知」を言語化し、まとめていても、断片的になっていて、使いにくいというケースがある。例えば、ある部分については、詳しくまとまっているが、その他の部分については手つかずとなっており、一貫して使えるようなものになっていないというケースがある。また、バラバラにまとめられたものはあるものの、特定の事項を知るためにどこを見ればいいのかという「地図」が不在なため、利用者が立ち往生してしまうというケースもある。このように体系化が不足している場合、せっかくまとめたものも、組織全体として活用されずにだんだんと忘れ去られてしまいかねない。
2、3のパターン(言語化されても共有化されていない/体系化されていない)については、後でも少し触れることにして、次に「知」を言語化する方法について考えてみることにしたい。
「知」を言語化するためには、一連の業務のプロセスの「全体設計図」と個別の「業務の詳細仕様」の二つをまとめる必要がある。
全体設計図をまとめる
業務プロセスを整理するにあたっては、まずはプロセスをまとめる単位(組織別、商品・サービス別、業務別)を明確化する。その上で、まずは人と人とのつながりや情報の流れ、というように、業務プロセス全体の設計図を押さえていく。
ここでの全体像の把握方法には、@時間軸(業務によって、年・月・週・日というようにスパンが異なる)をメインに人・組織間の動きをつかむという方法と、A組織間のやり取り・意思決定の流れをつかむという二通りの方法があるので、整理する対象となる業務の特性によって適切な把握方法を選ぶ。
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図1/全体設計図 |
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業務の詳細仕様をまとめる
次に、個別の業務の洗い出しを行うこととなるが、まずは業務プロセスを明確化するレベル(どの程度まで掘り下げるのか)をしっかりと定める必要がある。この際に、個人ごとの行動レベルまで細かく掘り下げると、膨大な作業が必要となってしまい、仮にいったんまとめたとしても、その後のメンテナンスの手間が膨らんでしまう。その反対に、ごく大まかなプロセスをまとめるだけでは、問題の本質をつかむことはできない。
個別の業務のプロセスを洗い出す際、ある程度決まった手順が確立されている部分については、フォーマットに基づいて各人に記入してもらうことで整理が可能である。一方、属人化された業務が多い場合には、時系列で、具体的な業務内容・行動内容(What)、その際の注意点・工夫している点(How)、なぜそれをするのか(Why)についてのインタビュー(行動探索インタビュー)を行う。こうした聴き取りを業務の最初から最後まで通して、チーム単位、あるいは個人ごとに行うことで、個別プロセスに含まれる「知」が明らかとなる。
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図2/業務の詳細仕様 |
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このような、業務プロセスの整理をする際には、現状の整理のみに終わらないように注意する必要がある。業務プロセスを整理した後の、ゴールイメージを持たなければ、単なる現状の整理に終わってしまい、業務の改善には結びつかない。
また、これらの一連のステップを踏んだ上で、まとめた内容をデータベース化することも検討するべきであろう。さらにその際には、言語化されたものの共有化・体系化されていなかった既存の資料やノウハウ集との関連づけ(インターネット上のリンクのイメージ)を行うことで、組織内に拡散していた「知」に息を吹き込むことが可能となる。
上記に述べたような作業を行い、組織内に散らばっていた「知」を吸い上げてデータベースにまとめたとしても、「知」の共有化が進まないというケースが散見される。だいたいのケースを見ていると、その原因は、相互に関連する次の三つに分けられる。なお、この三つの要因は、先に「知の共有化を阻む要因」でも述べたパターンとも密接につながっている。
「入れ物」の問題 :本当に欲しい情報が見つからない
「中身」の問題 :日々の忙しさによって、アップデートがされない
「意識」の問題 :そもそも、組織全体に知の共有化を行おうとい
う意識が浸透していない
「入れ物」の問題を解決するためには、まずは、どの項目が、どの部分でカバーされているかがわかるような、知のデータベース全体の地図を用意する。さらに、IT技術を活用して、データベース全体に検索機能を持たせるという工夫も必要である。
ある程度の知識を持った人であれば、全体の地図を見れば、どこを参照すればいいのか、見当をつけることができる。しかし、全く初めてその業務を行うことになった担当者の場合、キーワードを用いて検索することができなければ、どんなに素晴らしい中身が入っていても、どこを見ればいいのかわからず、せっかくのデータベースが役に立たないということになりかねない。
「中身」の問題を解決する方法の一つは、「知」の提供者に対してインセンティブを与えることである。その方法としては、例えば、自分が入力した項目へのアクセス件数によって何らかの報償を与える仕組みがあろう。また、インセンティブを与えたとしても、多忙な担当者がデータベースへ情報を入力することが現実的でない場合、忙しい中でも、入力の手間を省力化するための仕組み・システムを用意して、できるだけ担当者の負担を減らすよう工夫することが必要である。また責任の所在を明らかにするために、持ち回りで部署内にデータベースの管理担当者を任命するというように、ある程度強制的に運用することも、有効である。要するに、アメとムチの併用が重要である。
使いやすい入れ物が整備され、その中身が充実してくることで、「知」のデータベースの使用頻度が向上し、自ずと組織全体に「知」の共有化は有益だという意識は高まってくるが、さらに、組織内に「知」の共有化を浸透させるためには、社員研修プログラムの中に組み入れるということが有効である。この場合には、単に「社内にはこういったデータベースがある」という紹介を行うのではなく、具体的なケーススタディ形式で、実際に業務を進める上で壁にぶつかった場合の解決策を、データベースを使って探させるといった実習を行うことで、実戦で使えるツールであるという認識をさせることが効果的である。
「知」は生き物である。いったん整理したところで満足するのではなく、「常に進化し続けている状態」を保つことが欠かせない(なお、人材像から見た「知」の共有化を進めるための基盤については、本号掲載の永田の論文を併せて参照されたい)。
「知」の体系化は現地化を進める上で重要な成功のカギといえる。しかし、これまで述べてきたような仕組みを構築するだけでも不十分であると感じることがある。
そもそも「知」とは、最後にはどうしても「人」に残るものであり、すべてを言語化し、共有化することはやはり難しい。業務によっては、言語化することが難しい領域は、やはり存在するし、本当に最先端のものは、個人個人の頭の中に、言語化される前の状態で存在している。
ではどうしたらいいのか。
人と人のネットワーク作りが一つの解決方法と言える。本社社員と、アジアの各ローカル社員の間で、face to faceのコミュニケーションの場を設けるなどして、誰が、どのような「知」を持っているのか、ということを、お互いに知る機会が重要である。
逆説的であるが、「知」の共有化のインフラがないままに、単に、人を集めても効果は低い。「知」のデータベースへの情報提供者が集まることによってこそ、真の共有化が進むのではないかと考えている。
なかには、「知」は最後にはどうしても「人」に残る、ということにばかり着目して、「知」の共有化を進めないケースもある。問題の本質が見えるがゆえに陥りやすい過ちといえる。我々としても、「知」の共有化を進めるだけでは十分とは思っていない。しかし、真に現地化を進めていくためには、まずは第一歩を踏み出すことが重要である。そのために、「知」の共有化は効果的であると思っている。
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