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【巻頭言】 |
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知の統合基盤の再構築と新たなミドルの誕生
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永田 稔 |
先日、生物の進化についてのある論文を読んだ。その記事によると、生物の進化がその形態の不可逆的な変化であるならば、その直接的な原因は形態の発生プロセスの変化であり、遺伝子はそのプロセスを動かす道具にすぎない、という内容であった。これはどういうことかというと、遺伝子はあるプロセスの中で働くことによりその持っている情報を形にすることができるということであり、進化には遺伝子の情報とともに、それを発現させるプロセスの変化が重大であるということである。仮に同じ遺伝子(情報)を内に持っていても、それを発現させるプロセスを持たない限り、発現は起こらないということである。
この進化のメカニズムを企業に置き換えてみると、どうなるであろうか。遺伝子は情報であり、具体的には、業務の進め方であったり、ノウハウであったり、行動の仕方であったりするのであろう。一方、生体における発現させるプロセスは、企業においては情報を使い成果を創出するマネジメントということになる。企業の進化のためにも、生体と同様、情報を創出し蓄積するとともに、その情報をいかに使うかというプロセスの問題が大きいと考えられる。
日本企業は、前回の稿で述べたように、長期雇用という仕組みの中でカイゼンにより情報を生み出し、生み出された情報を人という乗り物に乗せ、ヨコテンし社内に受け継いできた。この情報を生み出し、蓄積する力は現在弱まっているものの、依然として日本企業の強みであろう。この強みは、企業や市場の進むべき方向が一定である場合や方向が見えている場合には、組織全体がその方向に向かい成果の質を高める運動となるため競争力の強化につながりやすい。その一方、市場が変化をしているような状況では、日本企業はマネジメント不在と呼ばれ、苦戦を強いられてきた。このマネジメント不在とはどういうことであろうか。筆者はこのマネジメント不在を、知を成果に変えるプロセスを構築する力、企業のうちに持っている知を再編集し、市場に対応する力と考えている。実際、日常のコンサルティングを通じて感じることは、日本企業の現場では日々カイゼンが行われて新たな知が生み出されている。その一方、それらの動きが企業全体の変革にはなかなかつながらない。エネルギーが拡散され、ロスをしているような感を受けるのである。これは、上記したような、知やエネルギーを統合する力が弱いために組織の力が拡散しているためと考えている。ただし、なかには、カイゼンとヨコテンで圧倒的な競争力を築いた企業も存在する。そのような企業で行われているのは、まさに圧倒的な試行スピードの速さと広がりを持つカイゼンとヨコテンであり、通常の企業の中で行われているレベルでのカイゼンとヨコテンのみでは、変革は困難であろう。
企業の進化に必要なことは、現場におけるカイゼン・ヨコテンの繰り返し運動と、その運動により創出・蓄積された資産を新たな成果に変えるためのプロセスの革新である。
これらの知の創出・蓄積とプロセス革新が相互に影響をし合い、企業としての新たな形質を作り上げていくのである。この二つの要素を高めていくことが企業の進化には必要と考える。
それでは、これらの運動や力を企業の中で高めるためには、何をすべきであろうか。特に、この稿では日本企業の課題となっているプロセスを革新し運営する力について考えてみる。
企業としてプロセスを革新し運営する力を高めるためには、プロセスを構成する要素を整備し、それらを新たな文脈で再統合するプロセスリーダーの存在が必要になる。つい目が行きがちなのは、プロセスリーダーの存在だが、同時に企業としてプロセス要素の整備にも力を入れなければならない。そもそもプロセスを構成する要素がどのようなものなのか、何が企業の中にあるのかがリーダーにわからなければ、再構築も進まない。プロセスの言語化が必要なのである。
それでは、プロセスの要素を整備する、言語化するとはどういうことであろうか。企業は顧客への成果を生むためのプロセスを持ち、そのプロセスは複数の「仕事のかたまり」により成り立っている。プロセスを設計・再構築するためには、まず、どのような仕事を行うことができるのか、そのための知はどのようなものがあるのかを明らかにしていく必要がある。
日本企業では上記したように、知が人という乗り物で伝えられるために、個人の中に埋没しやすい傾向を持つ。そのため、どのような知が企業の中に存在するのか、その全体像を把握している人が不在である場合も多い。また知が企業の中に散逸している状況にも陥りやすい。よって、プロセスの再構築には、仕事をかたまりとしてとらえ、個人のうちに入り込んでいる知を取り出す作業が必要であり、またそれを体系だて、散逸している知を統合する必要がある。それはどのように行うのか。我々はこのような作業を知の統合基盤づくりという形で行う。
知の統合基盤とは、従来暗黙的に共有していた、すべき業務、その進め方、進めるに必要な情報、知識、知恵を構造化したものである。三層で構成されており、一番上層の層が「業務モジュール」(何をするのか、WHATに関すること)、中間層が業務モジュールを実際に遂行するための行動(どのように行うのか、HOWに関すること)、最下部層が行動を引き起こす知識・知恵(何故、そのように行うのか、WHYに関すること)となっている。この構造自体が、従来、企業の中で別個に行われていたナレッジマネジメントやハイパフォーマーの行動モデルを統合したものであることに加え、企業組織を情報とその情報を基に仕事を遂行するかたまりとして表すように設計されている。この三層構造を明らかにすることで、社内で明示化されていない知を明らかにするとともに、明示化されていても散逸している知の体系化を行っていくのである。我々がこの体系化を行う中で、その企業の中にいる人々も、知の価値を理解していく。「このような情報や知があれば、もっと早く・上手く仕事ができたのに」と。
この仕事のかたまりを明らかにすることはプロセスの設計・再構築に必須であると考えている。企業の中にどのような仕事ができるスキルが存在しているのか、それはどのような人なのかを知らずして、プロセスリーダーはプロセスの再構築を行うことは不可能であろう。
次に、プロセス再構築を実質リードするプロセスリーダーについて考えてみる。このリーダーはどのような役割を果たし、どのような能力が必要なのであろうか。プロセスリーダーとは、市場の変化を理解し、企業の資産である仕事のかたまりの再編、再統合を行い、企業としての成果を生み出す新たなプロセスを構築するリーダーである。経営と現場、長期と短期、抽象性と具体性の間を行きつ戻りつしながら、成果を実現するリーダーである。ピラミッドの中間にいる従来の管理職ではなく、経営と現場双方に働きかける実質性を持つ「新たなミドル」である。この新たなリーダーには目指すべき姿であるビジョンを設定する力と、実現のために伝える力が求められる。ビジョンを設定する力については他の書に譲り、ここでは、今後より一層開発が必要とされながらも従来注目されていなかった「伝える力」について考えてみる。
伝える力とは、狭義の単なるコミュニケ−ションでなく、生物の発現プロセスと同じく、必要な情報を選択し、発現に向けて複数の情報のコミュニケーションを発生させ、発現のあり方をコントロールする広義のコミュニケーションである。
従来、日本企業においては、この伝える力は重要視されてこなかった。これは、同質的な文化的背景を持つ集団であったことや、長期的な企業内の人間関係から、言わずともわかることが、ある種の美徳的な価値観までに祭り上げられてしまったことが原因として考えられる。このため、伝える必要がある場合でも、十分なメッセージが伝えることができなくなってしまっているのである。その一方、今後期待される「新たなミドル」は上記したように抽象性と具体性を行ったり来たりしながら複数の視点でモジュールを統合していくことが求められる。さらに、従来の日本企業の強みである「摺り合わせ」のためのコミュニケーションの中核になっていく。これらのことから、「新たなミドル」には極めて高い「伝える能力」、つまり「言語化する能力」が求められているのである。
伝える能力の根幹をなすものは、言語である。目指す姿を伝える抽象度の高い言語と、ビジョンを実現するための具体性を持った言語の双方を使い分ける言語能力の高さが必要になるのである。素晴らしいビジョンでもそれを伝える言葉が陳腐であるならば、人の心を打たない。具体的な成果イメージを伝えられない限り、人を動かすことはできない。言語能力の高さが成果の実現を左右するのである。
新たなミドルとして登場しつつあるプロセスリーダーは、この必要能力に気付いており、コミュニケーションや言葉に対する感度が極めて高い。一つ一つの言葉を吟味し使い分け、コミュニケーションを行っている。言葉の怖さやパワーを実感している様子である。日本企業は新たなミドルの発掘の際に、またその育成のために、言語能力の高さに注視をすべきである。国語の試験をやれといっているのではない。発掘、育成の際に、その人の持つ言語能力に注視をすることで新たなプロセスの設計や運営の成功確率を高めることができると認識すべきと言っているのである。もともと組織は人間のかたまりである。そのかたまりがかたまりとして動くためには、言葉が必要である。日本企業は言葉の力を今一度取り戻す時期にきているのではないだろうか。
以上、進化する組織の条件について、今からできることを中心に述べてきた。最後に最も大切なことを示したい。
企業の進化は偶発的に起こるのではない。進化するという意図なしには企業の進化は起こらない。進化し続けるという強い意志の存在。それこそが企業の進化をつかさどるものである。この意志をもてるかどうかが今問われている。
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