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【巻頭言】 |
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コアプロセス再設計のマネジメント
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竹田 年朗 |
どんなに優れた組織やリーダーにも限界がある。多くの場合、その限界が原因で、成長に陰りが出る。今の組織やリーダーの限界を突破し、企業成長の限界点を先に置き直すのが進化である。
したがって、進化に対して自然体で臨んでいるようでは、これからのマネジメントはコミットメント不足のそしりを免れないだろう。進化のメカニズムは、経営の意図として企業のコアプロセスの中に埋め込んでおかねばならない。受け皿がプロセスである理由には三つある。重要なことを特定個人に依存するのはあまりに脆弱であるからであり、そしてプロセスならメリハリをつけて設計できて、しかもプロセスなら必ず改善できるからである。
進化のメカニズムをコアプロセスの中に織り込み、顧客企業の組織やリーダーの限界を打破することは、我々コンサルタントが提供できる重要な価値の一つである。実際に、顧客企業にはそのように認知をいただいており、日本が再び成長に転じて以来、進化をテーマとする照会・依頼が増えてきているのが実情である。
コアプロセスに進化機能を内包させて再設計するためには、前工程として、現状と目指す姿の間のギャップを明らかにし、そのギャップを埋めるシナリオを描くことが必要になる。ここで注意すべきは、組織やリーダーは生き物であり、得手・不得手もあれば、癖もあるということだ。したがって、何がギャップを生んでいるのか、何を軸に改革を引っ張るのかという判断にはある程度の慎重さを要するし、また、設計したコアプロセスが本当に機能するかどうかの読みについても熟慮が求められる。本稿ではこれらの点について、いくつかの例を引いて具体的にお話ししたい。
まず、筆者が企業を見るときの目線についてお話をしておこう。ポイントは、その企業で課題がどこまで見えており、どこまで取り組めているかということに尽きる。つまり改革の永続性や企業の進化の要素に着目しているのである。
最初に、その業界や業界の顧客に起こっている構造変化や、業界の課題を押さえる。業界全体のバリューチェーンと顧客の動きを見て、どこに軸足を置く企業が、あるいは何を磨いてきた企業が、どのように強くなっていく構造なのかを理解する。また、今後どのような業界ショックの可能性があり、どのような備えをしておく価値が高いか理解する。
次に、事業領域、シェア、成長、コスト、イノベーションといった事業の観点から、その企業固有の課題を確認する。何については強くて、何が弱いのか。何については進んでおり、何が遅れているのか。そして中長期の志やビジョンはどの方向にあり、どの地点を目指しているのかを理解する。
そして最後に、この二つのエクササイズから明らかになるその企業の重要課題に対して、現状どこまで取り組めているかを把握する。その企業の業績や競争力についても、できるだけこの文脈で理解する。
この方法により、目に見えるハードイシューを整理するとともに、背景に潜んでいるソフトイシューやソフトな重要要素に見当をつける。
A社の事業のいくつかは成熟化の段階にある。相当に強い市場ポジションを確立している事業もあったが、全社の業績はグローバル優良企業に比べて見劣りし、イノベーションもかつての勢いを失っていた。A社全体およびA社の個別事業を診断すると、事業構造改革などの中長期課題に手がつきにくいことに加え、業績向上的な短期課題の取り組みレベルにばらつきがあった。
特に予算や中期計画のサイクルで分析すると、事業部長や、複数事業部を統括するカンパニーの長のリーダーとしての特徴が明確に表れた。
すでに圧倒的な事業ポジションを築いたA社のあるカンパニーの問題は、容赦のない攻めの予算も組まれず、流通再編やM&Aによる業界構造改革にもハッキリした取り組みがないことにあった。ただし、予算は形式上きちんと達成し、売り上げや利益の絶対額も大きいので、そのカンパニーは社内で評価される傾向にあった。本社の管理指導の問題は後述するとして、これは主に課題認識機能に問題のあるケースと言える。こうした場合、事業トップ、企画スタッフのトレーニングや適材適所人事、世の中の一流とのベンチマーキングや社外からの刺激の取り込み、幹部会議など課題認識の共有・練磨の場の設定、といったことが必要である。
自己を客観視するためには具体性が肝心で、具体性を持つために通常行わないようなデータの収集・分析が求められる。簡単に取れないデータだからといって、諦めたり調査会社に外注に出したりするのでなく、事業トップやスタッフ自らがフィールドを歩き、数字と五感で把握してくれば、検討の真剣味や検討サイクルのスピード感は全く違ったものになる。ここに迫力がないと、会社によっては考えの方向性が正しくても、今の数字を背負っている現場によって、出した改革案が絵空事と断じられてしまうことがある。
このやり方がわかってきたら、これを施策の成果検証と翌期施策の方針決定コアプロセスに落とし込んで定着させる。うまくできないからやらない、意味がないからやめるという選択は本来ないのであって、必要だからうまくできるようになんとか持っていくのが、リーダーシップというものである。不適切なリーダーシップはこういうところにはっきり表れるので、対策をとる。
このように、事業のリーダーの不得手領域が、そのまま事業の死角になってしまう可能性がある。それは生産やR&Dのこともあれば、海外展開やM&A、高い業績目標へのチャレンジ、チャネル構造の改革、圧倒的コストダウン、あるいは人材育成や後継者育成であることもある。
対策の仕方はいろいろある。リーダーが交替しない限り打つ手がないということはないし、交替した新リーダーが完璧ということもないので、要は状況を分析し、打ち手を組み合わせて対応することになる。
事実によって事業のギャップを適切な目線で認識するプロセスを作ることと並行して、リーダーアセスメントを行ってコンピテンシーのギャップも診断し、事業およびそのリーダーについて集中的な対策が必要な領域を明確化する。これを、上級人材プールなどの人材開発の仕掛けと結びつけ、リーダー人材開発のコアプロセスとして設計する。
リーダーの実力を補完する方法としては、トレーニング、管理スパンの変更、補佐の任命、コーチやメンターの任命、報告や会議などトップとの接点の設計、360度フィードバック、透明な交替の仕組みの導入など、いろいろ考えられる。
会社として改善対策をとる前提は、本人がギャップを正しく理解し、その克服を決意していることである。リーダーとしてシニアになればなるほど、個人の願望と事業に対する願望が相乗化してくるので、リーダー個人の願望の持ち方をうまくガイドすることの効果は、実は企業にとって計り知れない。
会社としてある特定の人に頑張ってもらうのがベストという場合に、本人に不得手の克服をどうやって決意させるかが問題になることがある。誰しも不得手は認めたくない。認めたとしても、克服は容易でないので気が重い。自信と誇りはあっても、どうしても自分の中にわだかまる部分への対策が必要になるケースである。
ポイントは、リーダーとしての自分の過去をきちんと棚卸しし、強みを再確認させた上で、自己に対する内面的な記述をポジティブに書き直させることである。このとき、分析的な助言を与えることが決め手で、このクラスの人材なら、助言を糧に進化が始まることが多い。ただ、進化に許される時間は限られるので、進化の速度によってはリーダー交替が選択肢に入ってくる。
過去記述をポジティブに書き直すという視点は、過去の失敗がトラウマになっている組織を活性化するときにも、ポイントとなることがある。この場合、分析的アプローチが有効なのも同様である。
A社の別のカンパニーでは、事業トップのキャラクターもあり、毎期アグレッシブな予算が組まれる。しかし、かなり未達のまま終わる事態を繰り返しているため、業界におけるポジションはあまり改善してこなかった。これは、主として実施面に課題のあるケースで、個々のユニットの目標の具体性、取り組み方の具体性、モニタリングサイクルの細かさ、未達が予想される事態に対する相互プレッシャーと良いアイデアを持つ人の介入、といったことをきちんとやっていく必達カルチャーが弱いことが問題と言える。
優れた具体策があるのに規律が弱くてやり切れていないだけという場合は、問題は比較的シンプルである。しかし、多くは、目標の意義はわかるが具体的にどうしたらよいのか納得のいくやり方が見つからないし、上に問い合わせても現場で考えるように言われてしまう、というパターンである。もしこれで進捗管理だけがきちんと行われるならば、組織にプレッシャーとストレスがあふれるか、あるいは言い訳と不信感が渦巻くだろう。
しかし本当は、人間は真剣になれば知恵が出るもので、試行錯誤は有効なツールである。悩んでいても仕方がないのでとにかく本部の言うやり方を具体的な客に当てはめてやってみよう、その様子をみんなで共有してウチのやり方を作り上げよう、他社のやり方は真似できないのか……、という腰の軽い必達カルチャーの醸成がカギである。
実力と行動パターンからコアメンバーを組織して、具体的な良い方法の開発と成功事例の横展開を進めるのが、流れを作る基本的なやり方であるが、必達カルチャーの醸成まで行くには、社員が何を一番喜ぶか、意気に感じるか、あるいは逆にそれだけは勘弁してほしいと思うかという動機に対する読みと、能力に対する読みが必要である。組織で一番偉い人物がいつもそのことを口にし、現場でそのことについて質問し、会議でそのことを追求するということでもよいし、自分たちはプロなのだからプロに評価されたいというなら最も尊敬されているプロの謦咳に接する機会をきちんと作る、というのでもよい。
自分たちで何とかする能力が高ければ、商品別・顧客別の月次粗利がちゃんとわかる、といった基本インフラ整備が結局は決め手となることもある。
A社ではいわゆるまじめなタイプの社員が多く、100点満点で事業の成績をつけて公開したところ、皆が相互に分析をし、話を聞いて研究し合ったので、短期課題はあっという間にカタがつき、組織が活性化した。一方、中期課題は難度が高く、これだけでは取り組みが進まなかったので、別のプロセスで本社企画部門が対応した。
事業部に対するカンパニー、カンパニーに対する本社の位置づけが単なる屋上屋になってしまうと、組織全体の活性化や業績向上は遠ざかる。下部組織の管理監督機能以外の役割を明確化し、その効果や効率が見えるようにプロセス化しておくことが基本である。
ガバナンスも含んだ各階層の本来の使命の構造設計については別の機会に詳述したいが、カンパニーを超える内容・規模の投資、既存事業の近傍領域を超える新事業開発や基幹的なR&D、基本情報インフラや組織運営の仕組みの整備などは、本社の役割として明確化・仕組み化する必要がある。そして、会社によってはこれが競争力の源泉たるコアプロセスとなる。
本社に人員投資をすると非効率の温床になりやすいのは、本社の効果と効率についての検証がやや難しいのと、現場に近い部分の効果・効率の検証を行うだけで、実際のところ会社が手一杯になりがちなためである。このような場合には、仕組み化・プロセス化の効果が大きく見込まれる。
逆に、業績が悪いから、トップの方針だから、というくらいの理由で本社の人員を絞り切ると、下部組織に対する監督機能も本来の役割も果たすことができず、かえって停滞の原因となる。
組織は常に、その時々の主要目的に光を当てて設計するものなので、本社組織の恒久的最適解や決定版というものはない。本社組織見直しのタイミングを逸しないためには、価値観や原理原則、あるいは組織運営方法の中にチェックアンドバランスの要素を入れ、定期的な棚卸しプロセスを持つなどの工夫が必要だろう。
別の状況での事例をご紹介しよう。B社は、トップが事業を牽引して急成長を遂げた、その意味で比較的若い企業である。A社を例にして挙げてきた課題はB社でもしばしば見られたが、成長が七難を隠すこともあって、必ずしもすべてが大きな問題とはなっていない。逆にトップのメリハリの利いた指示により、世の中でも先進的なコアプロセスを運営している領域も持つ。このようなB社の究極的な課題は、このトップにしかできないことを120%やれる仕組みを作り、企業を次のステージへと進化させることである。
トップの生い立ちや企業の成り立ちにもよるが、このような企業のトップは、まず商売の本質が体に入っており、さらにその事業の本質を誰よりも深く押さえている。会社が小さいときから何でもやってきたので、事業のすべての断面にわたって最高のプレーヤーであり、現場に対する指示の質とスピード感は圧倒的である。一方、事業の進化や業界の構造改革についても誰よりも深く考え、業界をリードする大胆な構想を描いている。これは超人と呼んでいい人材だろう。
このような超人的トップの悩みは、一般に二つある。一つは自分がトッププレーヤーであるがゆえに、結果を担保するために、しばしばオペレーションに介入せざるを得ないことである。社員の意識が、自分で考えることよりもトップの指示を実行することに向かってしまうこともあり、いつになったらオペレーションへの介入をしなくてよくなるのか、なかなか目処が立たないのである。
もう一つは、トッププレーヤーが自分であるから、よい着想を得ても、自分でやる以外に自分の満足がいくように具体化する方法がないことである。しかも、自分と幹部の問題意識の差が年々開いていくような感覚があるため、もどかしさに拍車がかかってしまう。
解決の方向性は、異能トップの機能を分担し、これを増幅するトップマネジメントチームを作ることである。このトップマネジメントチームは、社内外の人材から構成する。
社内人材チームは、商売の本質と事業の本質をできるだけトップに近いレベルで理解し、自分の専門領域においてトップの着想をできるだけトップに近いレベルで、もし可能ならトップを少しでも超えるレベルで実現する人材である。つまり、領域は限定されるが三拍子揃った人材である。
これに対し、社外人材チームは、商売の本質、事業の本質、専門分野のいずれかにおいて、異能トップに刺激を与えるほどの深みを持っており、トップから良い着想を引き出す人材である。
このようなトップチーム形成のカギは、トップによる訓練の場の設定である。その場には、ポテンシャルのある人材と具体的題材が必要である。商品レビュー(機能横断レビュー)や週次のビジネスレビュー、また会社運営の仕組みを考えるコーポレートスタッフ向けにはテーマレビューの場を作り、トップに報告をする。そして、議論の切り口、判断の着眼点、リカバリープランの具体的内容に至るまで、商売の本質、事業の本質、打ち手の完成度の三つの観点からトップの洗礼を受ける。トップの時間を有効に使いながら人材を目利き育成し、組織の力をつけていくのである。また、このような場は、外部からよい人材を獲得する仕掛けとしても使える。
最初に時間はかかっても、場に出される題材のレベルと場に集う人材のレベルが高まることで、進化の速度は加速する。その実現に知恵を絞るのである。
過去記述の検証のところでも指摘したが、進化には良さを伸ばす思想が重要である。悪いところを直すのにも、自分の良さを活用するということだ。
自己の客観視と実力への自信の二つのバランスを保ちながら、さらに上にチャレンジするのが健全な人間の進化であり、健全な組織の進化であろう。自己を客観視するためには、本当の姿を映し出す鏡や、本当のことを言ってくれる助言者を得ることが必要だ。また、自分の実力に自信を持つためには、自分の実績の棚卸しに労を惜しまないこと、そして誉められたい人から誉められることが必要だ。これらの要件は、多くの場合、努力してかなえていくものだ。
これらの条件を努力して整えること、そして志を形骸化させないこと、それが進化の条件である。
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